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神秘学を科学する 第4部

Scientific Mysticism Part 4

ウィリアム・ハンド

By William Hand

 このシリーズの第1部から第3部では、量子物理学、システム理論、そしてひも理論という科学分野の、とても興味深い発達を見てきました。科学という枠組みの中で、多くの神秘学的なテーマを探っていこうとするときに必要なツールが、今や私たちの手中にあります。

 この第4部では、神秘学にあるさまざまな側面が、どのように機能しているのかを、明確な形にしていきます。このような考え方を、科学者は「仮説を立てる」と呼んでいます。しかしその前に強調しておかなくてはならないことがあります。ここで示されることはひとつの意見であって、その考え方は正しいかもしれませんが、間違っていると、将来判明するかもしれません。かつてこのように言った人がいます。「専門家であるからといって、致命的な間違いを犯さないと保証されるわけではない」。私たちは誰もが、このことを心に留めておかなくてはなりません。しかし、ここで示される考え方は、しっかりとした基礎に基づいています。ですから、もっと進んだ発想のきっかけとなったり、ことによると、いつの日か、関連するいくつかの実験が行われたりすることを私は願っています。この記事では、一般には“超能力”(ESP)と呼ばれている「超感覚的知覚」(Extra-sensory perception)という大きなテーマについて考えていきたいと思います。というのも、ほとんどの読者のみなさんが、いつかは、このことに関連する経験を、少なくともひとつはされると思うからです。それでは、探究の旅を始めましょう!

第1章 超感覚的知覚(超能力)

Extra-Sensory Perception (ESP)

 ある現象を科学的に調査するときには、まずその現象とはいったい何なのかということと、その現象には調査する価値が実際にあるのかどうかを把握することから始めなければなりません。広く一般的に知られているESPの定義は、見る、聞く、触(さわ)る、味わう、匂いを嗅(か)ぐといった五感以外の手段で、この世界に存在するものを認識するプロセスのことです。

 しかし、ESPとは本来どういうものなのかを見定めようとするときには、とても慎重に行う必要があります。ペットを飼っている人、特に犬を飼っている人は、動物には第六感があるとよく言います。つまり動物たちは、何かが起こる前にそのことに気づくように思えるし、五感ではっきりと知覚してはいないのに何かを認識しているように思えるというのです。しかし犬には、私たち人間の限られた能力のレベルを、はるかに超える鋭い臭覚があることを思い出してください。ですから、動物が暗闇の中で道を見つけることができたり、何かの跡をたどっていくことができる能力は、私たちには驚くべきことに思えるかもしれませんが、それはただ動物が、彼らにとっては日常的な感覚を使用しているというだけのことなのです。

 「うちの犬にはできごとを前もって予知する能力があって、大好きな人が家に帰ってくるのが、数分前に分るようだ」と飼い主が言っているようなケースが、ESPの存在を明らかに表すケースであるとは言えないでしょう。この場合にも、すぐに納得できるような説明があり、人間には聞こえないけれども、犬にとっては普通に聞こえる音を聞いているのかもしれないし、また足先や足の裏の触覚が優れているので、それを通して音波を感じ取っているのかもしれません。

 もちろん、このような説明が本当であるかどうかを立証するのは難しいことですが、動物にESPが存在するという確かな証拠を、飼い主たちの経験が提供しているとは言い難いでしょう。2004年12月にインド洋で悲劇的な津波が起きましたが、このときの、津波が海岸線に到達する前に動物たちが海岸線から逃げだしたという報告書は、もう少し注目に値するかもしれません。これをESPの結果と考えることができるでしょうか? そう考えることも理論的には可能ですが、別な説明もできます。たとえば動物たちは、地響きや急に変化した海の音を感知したのかもしれません。そしてそのような音が、逃げ出すという本能的で原始的な反応の引き金となったのかもしれません。また、動物たちが逃げなければならないとしたら、自然に内陸へと向かうでしょう。このような例から、ESPが存在するという合理的な証拠を提供することは、最初に思うほどには簡単でないということを、ご理解いただけることと思います。

 しかし、ESPに関する同じような例が、人間の場合にも知られていて、戦時中、特に第一次世界大戦の最中の日付が記されている、文書として残っている数多くの証拠があります。正式に知らされる前に、最愛の夫が戦闘で命を落としたことが分っただけでなく、しばしば、死の時刻さえもが分ったと思われる女性がたくさんいました。また、一般的に予感とか直観と呼ばれるものを経験していない人は、この地上にはほとんどいないと言っていいでしょう。自分の人生に起こったことを「知っていた」、もしくは、これから起ころうとしていることを「知っている」と感じた経験がないという人も少ないことでしょう。このような経験は一般に広く知られているので見過ごすことはできず、説明する必要があります。ESPについて、激しい論争を呼び起こしがちな例としては、ダウジングや、占い、遠隔透視、テレパシーなどがあります。

 私は、テレパシーなどの、ESPの特定の例が、どのように働くのかという仮説を提示しようとして、泥沼にはまり込むのは避けたいと思っています。そうではなくて、あらゆる種類のESPという現象に共通する特徴を理解する努力をしていきたいと思います。つまり、見る、聞く、さわる、味わう、匂いを嗅(か)ぐという私たちの日常的な五感を用いずに何かを感知するというプロセスに共通する特徴を調べていきます。

 ではどのように、ESPは成立しているのでしょうか? 少しESPから距離を置いて、状況を分析してみることにしましょう。私たちが目で何かを見るときには、まず眼の奥にある錐体(すいたい)(cone)と (rod)と呼ばれる光の受容体に、物体から反射した光子が集められます。次に神経が刺激された結果として生じるパターンを、脳がイメージとして解釈します。脳が正確には、どのようにして解釈を行っているかという問題を別にすれば、おそらく、見るというプロセスは、科学的に理解がしやすいプロセスです。つまり、私たちは、眼で見ているのではなく脳で見ているのです。

 この点については、他の四つの感覚にも同様に当てはまります。この世界との相互作用のすべては、最終的には、私たちの脳で解釈されて、自身が暮らしている、物質からなる現実世界を構成しています。また、外部から来るこのような刺激の中には、何らかの反応を私たちに引き起こすものがあります。そして、その反応によって、世界との相互作用は完全なものになります。この種の反応は、外的な性質ではなくて、内的な性質のものである場合があります。たとえば、本を読むという行為は、何らかの新しい知識を私たちに与えることになり、私たちは、そこに含まれている意味に思いを巡(めぐ)らし、熟考することになります。人間の脳の中で、印刷された語句の図柄が目に入り、何らかの考えや、場合によっては、それに続いて行う行動を結び付けることが起こります。心と物質との間には多くのつながりが存在しますが、これはその一例を示しています。このような結びつきは、ESPをより良く理解するための出発点を提供してくれるので重要です。

 このシリーズの第1部では、量子物理学について検討し、実在(actuality)と現実(reality)の違いを考察しました。簡潔に言えば、実在(actuality)とは、何かの背後にある真の本質であり、現実(reality)とは、私たちがその本質を個人として知覚した結果です。観測したり、知覚したり、経験したりしたことを、私たち自身がどのように理解するかによって、あらゆる現実は異なるものになります。つまり、実在に観測を加えると現実が与えられます。すなわち、実在+観測=現実です。(actuality + observation = reality)そして、一般に意識を持っているとされるあらゆる生物、たとえば、植物や動物や人間に関しては、先ほど述べたプロセスの「観測」という部分を「意識」という言葉に入れ替えることができます。さらに、このように言うこともできます。すなわち、実在+意識>現実です。言い換えれば、実在の状態と意識が表現するものの組み合わせは、現実そのものよりも大きいのです。

 「実在」はあるがままに存在しているので、私たちは実在をコントロールすることは全くできないのですが、自身の意識をコントロールすることならできます。「自分の心を決めて」、自身の意識に焦点を合わせるのです(第1部を参照してください)。仮に私たちの意識が、五感から得られる情報を処理することだけに制限されているとしたら、“現実”は、物質の世界と、その世界との相互作用だけから成立することになってしまいます。その相互作用とは、自身の思考や行動を通して行う、物質世界と私たちの相互作用です。このような“現実”でESPは説明できないので、五感を通さずに働く意識の作用から、ESPは生じるのでなければならないということになります。ESPが、そのような意識の作用から生じるというのは自明なことだと、すぐに断言する読者のみなさんがいらっしゃるかもしれません。しかし、私たちが論理を活用して到達したのは、意識がESPにおいて重要な中心的役割を果たしているということです。したがって、いかなるESPの体験も、現実として妥当なものであり、私たちが選ぶことができる多くの現実のうちのひとつです。別の見方をすれば、ESPは実在と意識が結びついた結果です。ですから、ESPが生じるためには、「意識」を「実在」に結びつけるような、何らかのメカニズムが存在しなければなりません。

 量子物理学では、実在の本質は振動(量子力学的な波動)であり、そしてひも理論では、実在は多次元であるとされています。実在の振動と意識が結合するときには、意識が存在している肉体の振動と、意識している対象物の振動との間での情報とエネルギーの交換が行われています。これは、第2部でご紹介したシステム理論の応用です。情報とエネルギーの交換は多次元で起こるのであり、必ずしも“通常の”三次元空間に時間を加えた範囲内に限定されてはいません。ですからESPは、ひも理論で言う、まだ観測されていない次元における情報とエネルギーの交換を含むプロセスの結果として、起こっている可能性があります。

 したがって、ESPとは、多次元で振動する「ひも」同士の相互作用と、そこから必然的に起こる情報とエネルギーの交換を含むプロセスの結果であるというのが私たちの仮説です。神秘学的には、このプロセスは愛の活動にあたります。愛には無数の種類がありますが、それらは情報とエネルギーの交換によって生じるからです。

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